逮捕された団地住人が崩壊していった話

逮捕された団地住人が崩壊していった話団地住人の話

器物破損で逮捕された団地住人のその後の話です。

●前記事
早朝、大勢の警官が来て呼び鈴を鳴らした話

 

 

彼にのしかかるストレス

悩むイメージ

逃げる心配なしとして勾留せずに部屋に戻ってきた彼。
呼び出しに応じて警察へ出向き捜査を受けることになる。
「仕事のストレスが原因」と証言した以上、今の仕事は続けられないだろう。
人の視線を極端に怖がっていた彼。
全国ニュースに本名付きで顔を晒してしまったのであれば故郷にも戻れない。
団地の部屋に籠もるしかないだろう。

部屋で警察や親からかかってくる電話におびえる日々。
報道カメラが自分を狙っているかもしれない。
デリケートな彼がそんな重圧に耐えられるわけもなく、

 

壊れていった。

 

逮捕後静かになった彼だったが徐々に荒振りだした。
(おそらく)親との電話ではなにかをドンドンと蹴りながら絶叫を挙げていた。
そして電話が終わると発狂のごとく暴れた。

器物破損で逮捕状が出るほどの証拠が揃っていたのなら判決までスムーズに進むだろう。
結局どんな判決が出たのかは知らない。
ただ彼は収監されずに団地の部屋にいた。
執行猶予付きになったのかもしれない。

 

 

彼を変えたのは酒

ビールとチューハイの空き缶

逮捕から3ヶ月後、一騒動あった。

朝7時に騒がしい音で目が覚めた。
覗いてみるとまた警官だ。
ただ前回とは違う。
警官は数名。

警官が彼の部屋から出てきた。
パトカーへ戻ろうとすると、例の彼が部屋から出てきて「あ”あ”あ”あ”ぁーー」という奇声を挙げて警官を追いかけた。
何を言っているのかわからない。

ベロベロに泥酔しているのである。

警官は子供をなだめるような対応で彼を部屋に連れ戻した。
そして談笑しながら去っていった。
緊迫感一切なし。

どうやら泥酔してひと悶着起こしたらしい。

ストレスに耐えかねて酒に逃げたのだろう。
酒好きの私としては分からないでもない。

 

しかし彼はさらに酒に溺れていった。

 

 

崩壊へ

人を避けて行動していた彼だったが、徐々に人目を気にしなくなっていった。
騒音の質が変わったのだ。

早朝4時、壁に向かってなにか硬いものを投げ続けているようだ。
ゴン!!、ゴロゴロゴロという音が1時間続いた。
突然部屋を飛び出しゴミ捨て場の缶用ボックスにそれを叩きつけた。
ギャッシャーン!
早朝の団地にけたたましい音が響いた。

その数日後、部屋で何かを叫びだした。
声は聞こえるのだが文章の内容が全くわからない。
でも日本語風に聞こえる。

脳卒中後遺症の失語症でもウェルニッケ失語というよく似た症状がでることがあります。
もう脳にダメージが出始めているのでしょう。

その後、部屋を飛び出し、他の部屋の呼び鈴を順に押しながら笑いながら走り去っていった。

もうだめだろコイツ。

身の危険を感じて管理会社に報告した。
ただ「絶対に刺激しないでくれ」とも伝えた。
彼は追い詰めると外に向かって攻撃的になるのは今までの行動をみても明らかだ。

 

 

また早朝に警官が来た

団地

早朝5時、私の部屋の呼び鈴が押された。
どうせヤツだろう。
当然無視した。

6時30分にまた呼び鈴が押された。
無視。

しばらくして目が覚めたので外を見ると警官がいた。
また彼が逮捕されるのかとは思ったが、今回警官は4,5名と少ない。
「酔っ払って・・・」という会話が聞き取れた。
酔ってまた何かしたようだ。
ドア越しに彼と話している。

「大丈夫!大丈夫だから!」
「開けようよ」
「少し休んでから・・・」
「仕事はしてない?」
「親類は?」

「酔いが冷めないと帰れないよね、このままじゃ」という警官同士の会話も聞こえた。

状況を察するに、彼が酔っ払って何かをしでかし通報されたが、泥酔状態で部屋に籠城を決め込んでいる。
警官たちは泥酔のまま署に連れ帰っても取り調べが出来ないのでどうしようか、という話らしい。

その後も交渉は続き、10時30分頃にぺったんぺったんという不規則な足音を連れて去っていった。

 

 

人が終わる、ということ

団地

翌日、団地の近くに彼がいた。
すると「おい、どこ行くんだ!」という大きな声が。
6~7人の警官が小走りで駆けつけ彼を囲んだ。

「名前は?」
野太い声が団地に響いた。

その後、部屋の前で言い合いを始めた。
その内容で何が起きたのか理解した。

彼は連日110と119にいたずら電話をしていた。
そう言えば何回か消防車が来てたな。
さらに泥酔してコンビニやスーパーに居座り、営業妨害として通報されていた。
それが昨日早朝の警官。

警官との言い合いは激しくなっていった。

警官の「親に連絡します!」の一言が効いた。
彼「いや、、・・・いいです」
あ、萎えた。
親は苦手らしい。
警官「連・絡・し・ま・す!!」

勝敗は決した。

 

ベンチ

その日の夕方、彼を見た。

公園のベンチで寝ていた。
もう部屋に戻りたくないのだろう。

地面に500ml缶のチューハイと眼鏡が転がっている。
あれだけの騒ぎを起こしてもまだ飲んでいるのか。

彼の顔を見て私は息を飲んだ。
浅黒い黄土色、人の肌の色ではなかった。
ああ、もう肝臓が・・・。

彼はその後も騒音を立てながら暮らしていたが、いつの頃からか見かけなくなる。
故郷に帰ったのか、

いやおそらく・・・。

 

 

「テメー散々迷惑掛けてくれたな、静かになって良かったぜ」という気持ち。
私が脳卒中に罹患した元凶の一つは間違いなく彼だ。
しかし、私とよく似た境遇の人が崩壊していく様子を最前列で見せつけられたやるせなさ。

どうやって折り合いをつけてよいのか今でも分かりません。

しかし酒呑みな私が誰に言われるでもなく節酒を始めたのは、この「彼」の影響が大きいのです。
散々迷惑をかけて周囲を苦しめた彼ですが、ほんの少しだけ人のためにもなっているんですよ。

 

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終末の団地より